来月の2.7(金)-2.20(木)アップリンク渋谷にて開催となる「見逃したMOOSIC LAB 2019+」と2.14(金)には「MOOSIC LAB SHOWCASE in FUKUOKA」、と称した福岡はT・ジョイ博多でのセレクト上映に向けて、昨年末の本上映時の審査講評をアップさせていただきます。

■森直人(映画評論家)

バラエティ豊かで団子レース。作風のレンジの広さと、クオリティの混戦具合は例年以上の印象です。今回の短編は30分サイズがメインで、長編は60分サイズがメイン。双方のフォーマットが接近しているので、語りの速度や温度にもあまり差がなく、全作横並びの感覚で楽しめた気がします。

ただそんな計18作の中、実は一本だけ頭ひとつ抜けた形で惚れた作品がありました。それが都楳勝監督の『蝸牛』です。なぜ序盤にボレロなのか? なぜ今の時代の話なのに、昭和レトロな意匠なのか? といきなり想定外のカードを差し出されて狼狽えているうち、主演ふたりの魅力が爆発する。音楽もドラマによく絡み、MOOSICのお題的にもばっちり。奇をてらったウケねらいのようで表現に十分な弾力があり、とぼけた顔のまま不意に時代を撃ってしまうようなスケールの想像力&創造力がある。性別のない(雌雄胴体の)かたつむりっていうメタファーもめっちゃいいじゃないですか!
もちろん他の17本も好きなものが多かったです。短編部門は特定の作品に選出が集中してしまいましたが(前半は素晴らしいけど後半が伸びない、という作品が目立ったように思います。20分~30分程度という尺を考えると思考の展開力や語りの基礎体力がまだまだ必要)、長編部門の各賞にはなるだけ作品がちらばるように配してみました。ただ総体的に言えることは、みんな「優秀」だけど迫力がちょっと足らないかなあと(ちなみに昨年のムーラボはかなり「迫力」の年だったと思っているのですが)。
どこか既成のコードに流れていないか。自分が跳べる高さのハードルで良しとしていないか。自分が抱く葛藤の正体や、個と社会について、いろいろ考え抜いているか。そして「映画×音楽」についても。世の中には凄い努力を重ねながら活躍している実力者たちがいっぱい居ます。彼らを蹴倒し、新しい時代を作るつもりで映画作りに挑んでください。今後の健闘を祈る!

■林未来(元町映画館)


今年は長編部門が総じて秀作ぞろいで、映画を観る愉しみを存分に味わえた。逆に短編部門は心奪われる作品が少なく、賞の選出に苦戦した…。短編でこそMOOSIC LABの特性を活かして遊びゴコロや無謀な挑戦があってほしい!小さくキレイにまとめようとしないでください(お願い)。小さいといえば全体的に作品の世界観が手のひらサイズで、それは“今”の若手監督作品の特徴のひとつでもあるのだけど、その中で小さな世界から無限の広がりを見せた『眠る虫』は素晴らしかった。素晴らしすぎた。歴代MOOSICでも群を抜いている。今年はこれに尽きます。

■荻島達(オデッサ・エンタテインメント)

今回初めてすべてのムーラボ作品鑑賞させていただきました。どの作品もとても新鮮で作り手の意思を強く感じる作品が多く色々と気持ちを揺さぶられました。そしてお互いを引き立てる映像と音楽の相性の良さを改めて感じた2週間でした。関係者は20代、30代の方が多いと思うのですが、0から1を作る才能はなかなか持てるものではないと思いますのでこれからも自分の信じるものを生み出して欲しいと思っております。
私は仕事柄、商業的に成功するのかどうか、という点を中心に映画を観てしまうのですが、選考もその部分が色濃く出てしまっているかと思いますのでご了承ください。

長編・短編含めてもグランドグランプリ的に【眉村ちあきのすべて(仮)】にほぼ心を持っていかれました。これからさらにブレイクするであろう眉村ちあきを題材に取り上げ、虚実交えて描き切った監督の力量に感服です。まっとうな音楽ドキュメンタリー映画と思わせる冒頭から一転、SF?AI?クローン?特撮?エヴァ?青春?友情?ポプラ・・?タイトルどおり眉村ちあきのすべてを描きながら、さらに眉村ちあきが分からなくなる・・・いい意味で究極のプロモーションビデオでもあるなと。さらに眉村ちあきを知りたくてライブ行きたくなりましたから・・

■菅原睦子(仙台短篇映画祭)

仙台で若手監督の映画が映画館で単独上映された始まりは矢口史靖監督の『ウォーターボーイズ』だったと思います。それまでの仙台は東京とは全く違う映画環境で日本映画のしかも若手監督の作品が映画館で上映されるという事はほぼほぼありませんでした。
そんな仙台でも今やMoosicLab作品が映画館で上映されるところまで来ました。MoosicLabは作家の登竜門になったといっても過言ではないかと思います。そこまで来たMoosicLabの審査選考に携わらせていただく中、MoosicLabを足がかりに劇場へという意気込みの作品も増えてきたようにも感じ、最初に関わらせていただいたころの気持ちのままで関わっていっていいのかなとか、制作者と自分の年齢がどんどん開いて行っている事で、はたして自分の着眼点でいいのかなと、1作1作鑑賞を進めて行く中、そんな葛藤とも向き合わざるを得ませんでした。そんな時に『眉村ちあきのすべて(仮)』を観ました。観終わって、自分が最初に関わったときに感じたMoosicLabって楽しい!!!という気持ちがよみがえってきました。そうMoosicLabはものすごく楽しいのだ。音楽と映画がコラボした、若さに加え青臭さもありの、ここだけでしか出来ない事をやってのけた監督達の気合いの入った作品が観られる場なのだと。
きっとここから今回もいくつかの作品が仙台の劇場で掛かるであろうと、それはめでたいと素直に思うとして、選考する自分はここでのこの場でのこの機会でしか出会うことができない、前も後もないMoosicLabだからこそ出来たのだと思えた作品を選ばせていただきました。MoosicLabはもっともっと大きくなって行くと思います。だって映画×音楽の可能性は無限だから。その可能性にがんがん挑戦して監督や作り手の皆さんがやりたいことを思いきりやった作品を披露してくれる、そんな場所がMoosicLabであってほしいと思うのです。
今回も18本もの作品を観る機会をあたえていただきありがとうございました。直井さんに、そして制約のあるMoosicLabの中で新しい作品を生みだしてくれた全ての皆さんに深く感謝します。

■内藤有希・阿部史弥・吉田千夏(仙台短篇映画祭)

短編映画はムーラボ以外でも作れる場があると思うので「ムーラボである意味」は何だろうか。と思いながら審査していました。その意味で、今回選ばれた作品と選ばれなかった作品の差はとても大きいと思います。

映像と音楽の良さの相乗効果が大きい『Afterimage』、ミュージシャンとして活動している小日向さんの演技も良かった『蝸牛』、小山さん大島さんの演技、音楽が楽しい『ソウル・ミュージック』(選考結果として作品賞としては残りませんでしたが)が特に心に残りました。
選ばれなかった作品に関しては、映画自体の上手下手というより、もっとムーラボならではの、がっつり音楽と映画の実験を観たい!と思いました。せっかくの音楽も流すだけorライブ映像もするりと流れちゃう感覚があり、なんだか勿体無いな…という印象を受けました。これからのムーラボも楽しみです!!(内藤)

まずはMOOSIC LABという映画の多様性を守る場所を今年も開催してくれたことに感謝したいです。本当にありがとうございます。今年も多種多様な作品を楽しませていただきました。
全体を通して、映画へのこだわりはもちろん全ての監督から感じましたが、音楽へのこだわりを感じる人は少なかった、そして音楽へのこだわりのある監督の方が作品のビジョンもしっかりしていたという印象です。今後、参加する監督たちが音楽好きの面もどう表現するのかにMOOSIC LABの、さらには映画の可能性があるように感じます。その可能性に取り残されないようこちらも頑張ります。(阿部)

全体的に「音楽との融合」がもっと前面に出てもいいのではないかと思いました。その上で、「どのように融合しているか」「どんな効果を生み出しているか」「音楽もまた魅力に感じるか」が大事なのかなぁと。当たり前のようで難しい事だと思いますが、それをぜひ観て(聴いて)みたいです。
しかし初めて審査に参加してみて、難しさも感じつつそれぞれの魅力や力の入れ方が作品ごとに感じとれて面白かったです。(吉田)

■前田誠一(ゴトゴトシネマ)

高知には「よさこい踊り」という夏祭りがあり、全国から踊り子が集います。ルールが大雑把なので自由度が高く、それぞれのチームのオリジナルの歌や踊りが楽しめる趣向になっています。しかし現状のよさこいは、自由度が高いわりに、踊り子の好みからか「幕末一世風靡系」のパフォーマンスに偏っており、多くのチームが時代劇風の衣装で「ソイヤ!ソイヤ!」と言いながら踊っています。もちろん、こういうのが好きな方は追求すればいいのだけれど、やはりどれも同じでは飽きるので、まったく新しいパフォーマンスはないかと、いつも期待して見に行っています。
「MOOSIC LAB」も「音楽×映画」ということですが、まあほとんどの映画には音楽がついてますので、自由度の高いルールだと思います。だからもっともっと色々な音楽や映像が出てきてもいいように思いますが、実際はそうでもないような印象を持ちました。でも? だから? やはり「見たことも聞いたこともないものを見たい」という欲求は隠せず、審査させていただきました。

■石井雅之(アップリンク)


短編グランプリは『 ソウル・ミュージック 』。何気ない、なんならちょっとつまんないじゃないのと感じてしまうラジオ番組の収録シーン。お決りの挨拶とともにかかるジングルはオールナイトニッポン風…かと思いきや強烈に過剰なエフェクトを掛けているではないか。え?何これ、すげえヤバい予感。しかしそれは的中するどころか、予感を遥かに上回る展開で全てが愛と優しさに包まれていて最高の内容でした。音楽が持つ可能性を映画で提示できた奇跡の1本だと思います。
長編グランプリは『眠る虫』。映像に即興で音楽を載せてるような不思議な音楽の取り入れ方がまず新鮮でした。90年代後半のUSインディテイストの音楽も相まって浮遊しているような感覚になり、世の中にあることなんて確かなことなんてあまりないから、生きてるのか死んでるのかもわからないし、そのまま飛んで消えていっても不思議じゃないのがリアルだよなとふと思いました。


他にも安楽涼が監督した『追い風』は地元西葛西のドン詰まりの生活の中で、主演のDEGを映画が後押ししているかのような現実と映画が融解する作品でしたし、短編では圧倒的完成度『たまつきの夢』が出色でした。

■坪井篤史(シネマスコーレ)

偶然というか、たまたまというか。一番最初の開催からずっと審査員をやってる稀な映画狂人です。正直過去に直井さんと審査のやりとりで喧嘩になり、もう辞めたいといい、でも自分がこの企画を通して出会わせていただいた機会はとっても素晴らしい時間だったから今年も審査員やりました。
長編部門は『眉村ちあきのすべて(仮)』がベスト。映画は自由だ。音楽だって表現は自由だ。あとバカで良い。バカバカしくてちょうど良い。眉村ちあきってアーティストであり女優でありアイドルであり表現者に出会えただけでも嬉しい時間だったが、作品がここまでバカ(褒め言葉です)をやってくれると本当にアッパレです。早くたくさんのお客さんに眉村ちあきの女優としての顔を観てほしい。

そして『GEEK BEEF BEAT』の狐火この表現者も曲者。泣いた泣いた。そのひとつひとつの言葉に。あと内田慈との夫婦もピッタリ。
短編部門のベストは『蝸牛』小日向ひなた諏訪珠理にしかできない芝居の空間にドアノブロック東京○☓問題がアシストをする。なんか久々にドキドキしました笑。あと自分が注目する女優陣の活躍が魅せる短編の威力。兎丸愛美、石川瑠華、高橋あゆみ、土山茜、そして根矢涼香。勝手な妄想ですが、この5大女優で誰かムージックやりませんか…??
最後に毎回最後の思いながらの審査も今年は自分にとって良い経験でした。来年はどんな革命を起こすかわからないMOOSIC LABだけど温かい目で名古屋から応援しております。

■萬谷浩幸(加賀温泉郷フェス主宰)

最近、依存症についての本を読み漁っていて、映画と恋愛、映画とセックスの関係についてずっと考えていた。恋愛依存症やセックス依存症。恋愛もセックスも現代においてはずいぶん食傷気味だ。でも、それって映画そのものだ。今年のMOOSICLABは例年にも増して愛や性を扱ったものが目立った気がする。ただそのベクトルがいろいろあって「未」なのか「狂」なのか「逹」なのか。個人的には愛や性を「達観」した作品がもっとあってもいいのかなという気もした。


「狂」が「男の優しさは全部下心なんですって」「蝸牛」。「未」が「ビート・パー・MIZU」「眉村ちあきのすべて(仮)」。毎年、キラキラしたダイヤの原石を見つけさせてもらっています。

■下北沢映画祭運営委員会

短編という限られた尺の中で、多くの作品にしっかりとした物語が存在し、作品としてのクオリティは全体的に高かった。しかし、短編だからこそのアイディア、斬新さ、勢いを感じるものは少なく、その中でも強烈な勢いと瑞々しさを放つ『蝸牛』。音楽の中でも「リズム」に焦点をしぼり作品に取り込む斬新さ、キャラクターの愛らしさで彩る『ビート・パー・MIZU』。人間の根っこの部分に迫り、本質的な音楽とはなんぞや?という問いを斬新なアイディアで問いかける『ソウル・ミュージック』に短編ならではの特性、そしてMOOSIC LABらしさを感じた。30分の尺でドキュメンタリーというフォーマットを取り入れた『Afterimage』にも荒削りながら同様の気概を感じ、審査員特別賞に。

『テラリウムロッカー』は音楽の使い方には少しひねりが欲しかったものの、会社のロッカーという社会とプライベート空間の境界的な場所に着目し、そこに生き甲斐を見いだす女性のある種の狂気を愛らしくも切実に描く手腕を評して、準グランプリとさせていただきました。
長編は全体を通して、作品に寄り添ったストーリーへの没入感を促す音楽が多かったです。その反面、「眉村ちあきのすべて(仮)」「Geek Beef Beat」は新たな衝撃を与えてくれる音楽で彩られていました。中でも特別賞に選出した眉村ちあきはまだほんの少ししか彼女の魅力を感じられていないのではと、いい意味で期待を裏切ってもらえることを期待しています。他6作品で良かったのは、音楽によって役が殺されることなく、丁寧に作られていること。

「追い風」では笑ってばかりのDEGが音楽で想いをのせ、「ドンテンタウン(曇天街)」「眠る虫」では現実との境目が音楽によってうまく導かれ、見てる側は心地よい浮遊感を味わうことができました。どの作品も、作品と音楽がお互いにリスペクトしあって作られていることを感じました。その甲斐あって、とても良い作品ばかりで非常に審査が難しかったです。今回が悪いと言うわけではなく、「Geek Beef Beat」のように圧倒的に音楽で作品を引っ張っていく作品ももっと観てみたいと思いました。

女優の中では「東京の恋人」川上奈々美が圧倒的に素晴らしかったです。醸し出す昔の女感と、可愛らしい笑顔のなかにあるくぐもった表情が良かったです。もっと彼女演技が見たくなりました。男優賞のDEGは自分自身を演じるという難しい役どころだったかと思いますが、彼の躍動感ある姿には安楽監督とともに背中を押したいと思わせてくれました。 音楽も作品も非常に良いもの揃いだったように思います。他の作品も見てみたいと思わせてくれる作り手たちのこれからに期待しています。

…と言う感じで一部の審査員講評でした。審査員として参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました!各作品の選評も随時アップしていければと思います。

それではまたアンコール上映、そしてそれぞれの単独上映や今後の展開にご期待ください!